コーチング学研究に期待すること

日本コーチング学会理事・編集委員長
髙橋 仁大

· 理論と実践,コーチング学にのぞむ,「コーチング学」の体系化

2023年度より、コーチング学研究の編集委員長を拝命した。編集委員の方々と協力しながら、まずは本誌の編集業務を滞りなく進めていくことに尽力する所存である。さらに私自身の想いも踏まえながら、時代に即したコーチング学研究を創っていくことができればと考えている。本稿では私自身の想いも踏まえて、コーチング学研究に期待することについて記してみたい。

 

学会誌とはいわば学会の顔であり、学会誌のコンテンツそのものがその学会の来し方行く末を示しているものと考えている。そういった意味で「コーチング学研究」をどのようなジャーナルにしていくか、という問題は日本コーチング学会をどのような学会にしていくか、という問題につながっているともいえる。

そもそも「コーチング学」という学領域がどのように捉えられていて、「コーチング学研究」にどのような論文が掲載されていくことが望ましいのか、という点についてはまだまだ議論の余地は残されているところであるが、ここでは私の想いを述べることとする。

 

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現在の学会ならびに学会誌の名称として用いられている「コーチング学」という言葉は、古くは「体育方法学」や「スポーツ方法学」と称されていた。これらの用語の意味する概念の変化により、現在はこれまでの「体育方法学」や「スポーツ方法学」の概念も含めた形で「コーチング学」と称しているものと理解している。この「コーチング学」の研究領域の概念の変化について中川(2010)は、学校体育での指導に関する研究領域から広義の体育における指導に関する研究領域へ、また競技スポーツにおける指導に関する研究領域から広くスポーツ全般での指導に関する研究領域へとその概念が変化してきたと述べている。つまり共通している概念は体育やスポーツにおける「指導」に関する研究領域であるともいえる。

翻って近年のコーチング学研究に掲載されている論文を概観すると、この「指導」をテーマとした論文が数多く掲載されており、コーチング学研究のもつ概念を体現しているともいえる。

この「指導」をテーマにしているということこそが「コーチング学」のオリジナリティであると私自身も考えている。なぜなら「指導」をテーマとするには、その「指導」を実践する現場があることが必要だからである。そしてその「指導」の現場でのリアリティを含んだ論文は、「指導」の現場での実践を踏まえた実践者にしか書くことのできないテーマだからである。


 

体育・スポーツ分野における学領域の多くは親学問をその由来にしており、親学問の研究方法論を用いて、研究対象を体育・スポーツに関連する事象としているものであると理解しても良いだろう。一方で「コーチング学」は前述のように体育・スポーツ分野における「指導」に関する研究領域であり、それはつまり体育・スポーツそのものを研究対象としているともいえる。となればその研究方法論は「コーチング学」が独自に作り上げる必要があるといえ、そのような独自の方法論を用いたチャレンジングな論文が掲載されるようになることが、「コーチング学」のオリジナリティをさらに高めることにつながるのではないだろうか。

そもそもオリジナリティを持つ学領域である「コーチング学」の体系化をより進めるためにも、新たな視点からの「コーチング学」にチャレンジするような論文の投稿を期待するとともに、私自身もチャレンジングな研究を進めていきたいところである。

中川昭(2010)「方法学」から「コーチング学」へ.コーチング学研究23(2),95-98.

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髙橋 仁大(たかはし ひろお)博士(体育学)

鹿屋体育大学スポーツ・武道実践科学系教授、鹿屋体育大学スポーツイノベーション推進機構スポーツパフォーマンス・コーチング部門長、鹿屋体育大学テニス部顧問、日本テニス学会会長、日本スポーツパフォーマンス学会理事